他人に貸している不動産を共有している場合の管理について その1

「他人に貸している不動産が共有状態になっている場合、どのように管理すれば良いのでしょうか?」
といったご相談を受けるケースがよくあります。

そもそも共有者全員の合意がないと他人に共有不動産を賃貸できないのでしょうか?
一口で「賃貸借契約」といっても、状況によってどの程度の共有者の合意が必要になるのか解釈が異なります。正しい知識をもって対応しましょう。

また賃貸している際の「更新」や「解除」の意思決定に他の共有者の合意が必要になるのかについても、知っておくと役立ちます。

今回は他人に貸している共有不動産の管理方法について、弁護士がわかりやすくお伝えします。収益物件を賃貸している方はぜひ参考にしてみてください。

なお2回目の記事は「他人に貸している不動産を共有している場合の管理について その2」をご参照ください。

1.共有している不動産を賃貸に出すと、全員の合意が必要か?

共有不動産を賃貸に出す場合、共有持分権者全員の合意が必要になるのでしょうか?
答えは状況によって異なります。

共有者全員の合意が必要になるのは以下のようなケースです。

1-1.短期賃貸借の範囲を超える場合

短期賃貸借の範囲を超えて賃貸する場合には、共有持分権者全員の合意が必要です。短期賃貸借に該当するのは、一般的な土地の場合に5年、建物の場合に3年以下の賃貸借契約です。
その期間を超えて賃貸する場合には、共有者全員が合意しないと物件を賃貸できません。

1-2.借地借家法が適用される場合

短期賃貸借に該当する場合でも「借地借家法」が適用される場合には、不動産を賃貸するときに共有持分権者全員の合意が必要となります。
借地借家法が適用されると賃貸借契約の更新が原則となり、事実上長期にわたって賃貸借契約が継続する蓋然性が高まるためです。

たとえば居住用や事業用の建物を「普通賃貸借契約」によって賃貸する場合には借地借家法の適用があります。その場合、契約期間が2年や3年であっても共有持分権者全員の合意がないと賃貸できません。

上記のように、共有者全員の合意が必要になる行為を法律上「処分行為」といいます。

1-3.過半数の合意で賃貸できるケース

以下のような場合には、不動産を共有持分権者の過半数の合意によって賃貸できます。

短期賃貸借に該当し、かつ借地借家法が適用されない場合

共有持分の過半数の持分権者の合意によって不動産を賃貸できるのは、賃貸借契約が「短期賃貸借」に該当し、かつ「借地借家法の適用がない」ケースです。
たとえば土地を資材置き場として数か月間賃貸するだけであれば、共有持分の過半数の共有持分権者が合意すれば賃貸に出せます。

上記のように、共有持分の過半数によって意思決定できる行為を、法律上「管理行為」といいます。

2.賃貸借契約の更新に共有持分権者の合意が必要か?

不動産を賃貸していると、契約期間が満了したときに更新が必要となります。
更新には共有持分権者全員の合意が必要になるのでしょうか?

更新は、新規の契約締結と同様に解釈されます。よって短期間資材置き場などとして賃貸する場合には、更新も「共有持分の過半数の合意」によってできます。

一方、借地借家法が適用されたり短期賃貸借の範囲を超えたりしてもともとの契約締結が「処分行為」となる場合には、更新も処分行為となる可能性があります。
たとえば居住用の建物を賃貸している場合に更新したり更新拒絶したりする場合には、共有持分権者全員の合意をとっておいたほうが安心といえるでしょう。

3.賃貸借契約書の名義について

共有不動産を賃貸する場合、賃貸借契約書の名義はどうなるのでしょうか?

法律上、契約が有効に成立するために契約書の作成は必須ではありません。
民法上、契約は口頭でも成立することになっているためです。よって賃貸借契約書の名義を誰にしなければならない、という法律上のルールもありません。

ただし推奨される対処方法はあります。

3-1.処分行為に該当するなら全員が署名押印すべき

賃貸借契約が共有持分権者全員の合意が必要な「処分行為」に該当する場合、共有持分権者全員が合意した事実を残すためにも持ち分権者全員が署名押印すべきです。誰か1人でも抜けていると、後に「私は賃貸に賛成していない」といわれてトラブルになるリスクが発生するためです。

たとえば以下のように記載すると良いでしょう。
賃貸人 共有者A、B、C
A(署名押印)
B(署名押印)
C(署名押印)

3-2.管理行為に該当し、反対する共有持分権者がいる場合

一方で資材置き場として短期間賃貸する場合のように、過半数の合意によって賃貸できるケースでは、賃貸に賛成する共有持分権者のみの署名押印で足りると考えられます。
もちろんこういったケースでも反対する共有者が署名押印に応じれば良いですが、拒否されるケースも多いためです。
反対する共有者がいても、過半数の共有持分権者が賛成している以上、契約自体は有効に成立しています。

なお署名押印するのが賛成した賃貸人のみであるとしても、賃貸借契約書の名義自体は共有者全員の連名としておく方が望ましいといえます。そうでないと外形上、名前の入っていない共有持分権者については賃貸借契約の効力が及ばないように見えるためです。

たとえば共有者AとBが賛成していてCが反対している場合、賃貸借契約書の名義欄には以下のように記載しましょう。
賃貸人 共有者A、B、C
A(署名押印)
B(署名押印)

4.共有不動産の賃貸借契約解除に共有持分権者の合意が必要か?

共有不動産を賃貸していても、さまざまな事情により賃貸借契約を解除したい状況があるものです。解除の意思表示をするとき、共有持分権者全員の合意が必要となるのでしょうか?

賃貸不動産における賃貸借契約の解除は法律上「管理行為」と考えられています。
そこで過半数の共有持分の共有持分権者が賛成すれば、賃貸借契約を解除できます。

解除することが決まったら、解除の意思表示自体は共有持分権者の代表が行うと良いでしょう。代表が決まらない場合には、各共有持分権者が単独で解除通知を送れます。

また解除通知に載せる賃貸人としての名義人については、共有持分権者全員の連名とすべきと考えます。

5.共有不動産の賃料収受方法

共有不動産を賃貸していると、賃借人から賃料が支払われます。共有者同士でどのように賃料を分配すれば良いのでしょうか?

共有不動産からの賃料は、共有者が共有持分割合に応じて取得します。
たとえば毎月20万円の賃料が支払われて物件をA、B、Cの3人が共有しており、それぞれの共有持分割合が2分の1、4分の1、4分の1としましょう。この場合、Aは毎月10万円の賃料を、BとCはそれぞれ毎月5万円の賃料を収受できます。
AとBとCはそれぞれ賃借人に対し、自分に支払われるべき賃料を請求できます。

現実的な賃料支払方法
ただしAとBとCがそれぞれ10万円、5万円、5万円ずつを賃借人に請求すると、賃借人に負担がかかってしまいます。振込手数料も余分にかかってしまうでしょう。
そこで現実には、AとBとCが代表者を定めてまとめて賃料を請求し、賃借人から支払いがあれば分配するといった形式をとるケースが多数です。

6.遺産相続と賃料

遺産相続によって不動産が共有になった場合、賃料はどのように支払われるのでしょうか?
遺産相続が起こった場合、賃料の「発生時期」によって支払い先が変わります。

6-1.遺産分割前の賃料

遺産分割前の賃料は、法定相続人が法定相続分に応じて取得します。
たとえば相続人として子どもAとBがいる場合、遺産分割前はAとBが等分で賃料を分配します。

6-2.遺産分割後の賃料

遺産分割後は、遺産分割によって不動産を取得した相続人が単独で賃料を収受します。たとえば遺産分割でAが相続することに決まったら、その後はAが全額の賃料を取得できます。

共有不動産については弁護士までお気軽にご相談ください
共有不動産と賃貸借に関しては複雑でわかりづらい点が多々あります。迷われたときには、共有物分割に強いダーウィン法律事務所までご相談ください。ダーウィン法律事務所では、東京都新宿区四谷と東京都立川市にオフィスを構えております、埼玉、神奈川、千葉からのご相談も広く受け付けております。

この記事を監修した弁護士

荒川香遥
  • 弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士

    荒川 香遥

    ■東京弁護士会
    ■不動産法学会

    相続、不動産、宗教法務に深く精通しております。全国的にも珍しい公正証書遺言の無効判決を獲得するなど、相続案件について豊富な経験を有しております。また、自身も僧籍を有し、宗教法人法務にも精通しておりますので、相続の周辺業務であるお墓に関する問題も専門的に対応可能です。

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